中国語では他動詞であるのに日本語では他動詞用法を持たない「発展・成立・瓦解」といった組織体の変化をいう語のズレは中国語と日本語の言語類型的な違い、すなわち「スル」言語と「ナル」言語に起因することはすでに明らかになっていたが、それに加え「埋没(*人材を埋没する→人材を埋没される)」と「埋葬(彼を埋葬する)」のような現象も前者が日本語では他動詞用法を持たないことも類型論的な違いに帰することができ、さらに、日本語は「働きかけ」のみがコントロール可能で、結果はコントロール不可能と考える傾向が強いこと、それが例えば「この石は押しても動かない」のような自動詞による(不)可能などにも関係していること、あるいは日本語の敬語や女性言葉が他人の領域を犯してはならないという原則とも関連していることが明らかになった。また、中国語では形容詞であるのに日本語ではサ変動詞である「緊張・興奮」などの語例をかなり大量に収集し、その文法的ズレの原因は、要素還元的には説明不可能であり、すなわち中国語が「一点注目型」であるのに日本語は「多点参照型」であるといった現実認知の違い、から説明せざるをえないことを明確に示すことができた。そのような新たな知見が、日本後の「も」の多様(王選手もとうとう756本打ったね)現象など、長年取り組んできた研究が相互に連関を有し、中国語と日本語の対照研究に新たな分野を開拓できる見通しがついてきた。
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