本年度の研究は、比較的順調に進行した。研究課題である「中国演劇におけるリアリズム概念の成立と発展」について明らかにするため、まず中国におけるリアリズムの演劇と一般にみなされている話劇と、日本で一般にリアリズムの演劇と同義に使われている近代劇の関係について研究をおこなった。その結果が、『西洋比較演劇研究会会報』23号に発表した「話劇と近代劇」である。 瀬戸宏は『日本演劇学会紀要』38号「演劇のリアリズム」特集(平成十三年夏発行予定)の編集責任者であるが、この号には特集名と同一の長編座談会記録が掲載される。座談会は四部構成をとり、第一部 演劇のリアリズムの成立、第二部 社会主義リアリズムの諸問題、第三部 日本演劇のリアリズムー一九六〇年代まで、第四部 日本演劇のリアリズムー六〇年以後とし、瀬戸宏が司会・構成にあたるほか、中国演劇のリアリズムについても発言している。座談会はすでに終了し現在は記録を整理中であるが、その記録は三百枚近い長文になる予定である。この座談会は、研究課題について比較演劇の立場から研究を行ったものである。 平成十一年度は更に、中国リアリズム演劇の最高峰とされる曹禺の作品の性格と中華人民共和国建国後に曹禺の作品上演がどのように変遷したかについても研究をおこない、その成果を日本現代中国学会第49回全国学術大会(平成十二年十月二四日 東京経済大学)での「曹禺作品上演史からみた中華人民共和国五十年-『雷雨』を中心に」と題する口頭発表にまとめた。これも、中国演劇のリアリズム概念を作品を通して明らかにする作業であった。
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