研究概要 |
本研究では,非顕在的移動として扱われてきた現象は,2つの異なる類に属するとみなさなければならないことを指摘した。すなわち,i)束縛が認可条件となる,非顕在的WH移動と,ii)顕在的移動と同様に,C^<MAX>が移動する,NPIのanyの認可のための移動・否定と数量詞の相互作用・QRである。指定主語条件に従うかどうかに基づく,この区別は,C^<MAX>の移動は指定辞を通じてなされるが,束縛は主要部間の関係であることに起因することが示された。また,先行詞内削除(ACD)構文の特性を的確に捉えるためには,作用域標示に基づく数量詞上昇(QRSM)という概念を組み込んだ,外置と数量詞上昇の双方のメカニズムによる分析が必要であることを論じた。完全解釈原理の要請に基づくQRSMを仮定して始めて,右方向移動に基づく分析とscramblingに基づく分析の有界性に関する問題点を解決することができる。また,名詞句(Determiner Phrase:DP)を,Chomsky(2000)が提案するPhaseとすべきであるとする大庭(1999)の分析の妥当性を吟味した。そして,特定性(specificity)と名詞句の内部構造に対する分析を批判的に検討し,名詞句が特定的である時にのみ,DPが投射されるとする分析が優れていることを指摘し,移動のみがPICを遵守し,束縛はPICに従わないことを論じた。最後に,Abney(1987)等の名詞句を機能範疇DPとする研究以降の名詞句の内部構造に関する精緻化に関する動向を概観し,名詞句の内部構造として小節が含まれるとする分析やNumPが含まれるとする分析は,形容詞と名詞の語順あるいは数量詞遊離の現象の解明に有益であることを指摘した。本研究から,名詞句が関連する移動の文法性の違いは,限定詞(D)が主要部として存在するかどうかに還元できることが示された。
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