二年にわたる本研究では、ブレイクの複合芸術(イラストつきの詩作品)において頻出する血液(さらには「血管」)の意味の特異性を明確にするために、当時一般に流布していた「血液」の意味を調べて、ブレイクにおける「血液」との比較考察を行った。 当時の医学的ディスコースにおいて、血液は人間を養う滋養の液体であり、生殖に深くかかわる液体でもあった。この考えは、アリストテレスの医学関連書にみられる記述に負うものであるが、ブレイクはそれをさらに押しすすめて、血液を「女」と密接に結びつけるにいたった。もっとも極端な例では、血液の球体から「女」が生成されていくのである。つまり、女は「血液」から誕生することになるのである。 さらに、「血管」もブレイク独自の意味をあたえられていることが、この研究によって明らかにできた。血液を女の性に結びつけたブレイクは、血管にも濃厚にセクシュアルな意味を与えた。血管はブレイクの作品における登場人物の肉体をつき破って、しばしば体外に飛び出しているが、そうした血管の流出がおこるときには、男女のあいだで主権をめぐる争いがおこるのである。 本研究の成果の一部は、『筑波イギリス文学』5号(1999年)に掲載したほか、今泉容子著『ブレイク修正される女-詩と絵の複合芸術』(彩流社、2001年)のひとつの章としても公表した。さらに、来年度に開催される日本英文学会全国大会のシンポジウムにおいても発表の予定である。
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