近年めざましい進展を遂げたポストコロニアル批評のなかに「アメリカ」というトポスが欠如しているという指摘が、エイミー・カップランおよびドナルド・ピース共編著『合衆国の帝国主義の諸文化』によってなされたのは1993年のことであった。本研究は、そうしたポストコロニアル研究のなかでも依然等閑視されているアメリカの女性文学と合衆国の植民地主義との関わりを明らかにした。 こうした研究には、従来のアメリカ女性文学の研究の方向性そのものを見直す作業が不可欠であった。まず歴史のなかからアメリカ女性作家の作品や未出版の書簡を掘り起こすといった作業を地道に行い、女性作家によるいわゆる「第三世界」-東南アジア(たとえば、エミリー・ジャドソンの『カサイの奴隷』)や中近東(たとえば、マリア・スザンナ・カミンズの『エル・フレイディス』)-を舞台にした作品を発掘した。そして、それらの作品に見られる植民地主義言説を分析し、女性文学と合衆国の植民地主義と関係性を考察した。 この研究により、女性文学が「明白なる運命」のイデオロギーを再生産・補強していったというカップランらの見解を修正することができた。さらに女性作家は合衆国の拡張主義イデオロギー(「明白なる運命」)に回収されることのなかった、隠れた植民地主義の歴史を顕在化するという、申請者の仮説をも十分に裏付けることができた。
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