本年度は連合王国における基礎的史料の収集と、『ウェルズリー・インデックス』などを参考にした、匿名記事の執筆者の調査、確定が研究実績の中心となった。とくに『ブラックウッズ・マガジン』初期の匿名記事は『ウェルズリー』ではカバーしていないため、筆者の特定は困難を極め、なおその作業が継続中である。そのため研究結果を公表する段階には至っていないが、本年度の調査過程で、以下の諸点が、英文学の正典形成のメカニズムの問題を強く意識する本研究の具体的な課題として設定された。 (1)『エディンバラ・マンスリー・マガジン』としての創刊時期の編集者が、ブラックウッドによって解雇された経緯と、トーリー・イデオオロギーの関係。 (2)上記(1)の事件において、編集者の推薦と変更に関与したジェイムズ・ホッグの位置。あわせてトーリー的でありながら、ウィルソンやロックハートとは一線を画していたホッグのイデオロギーの特質。 (3)オックスフォード出のインテリとしてのロックハートによる『ブラックウッズ・マガジン』初期のロマン派批判に見られるイデオロギーと、後の伝記作家、『季刊評論』編集者としてのロックハートのイデオロギー上の差異。 (4)『ブラックウッズ・マガジン』の看板連載となった『アムブローズ館』におけるウィルソン(実質的な執筆者)、ホッグ、ロックハートの表象と、エディンバラ文壇におけるその受容。 (5)「英文学」の正典として認定されているスコットと『ブラックウッズ』陣営との関係。 それぞれ相互に関係する以上の諸点から、さらに厳密かつ限定された史料収集とその解読が今後の研究となる。
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