本研究の目的は、1960年代以降の現代アメリカ演劇の諸相を比較文化的に4年間の期間で明らかにすることにあった。しかし、研究開始時にも述べたように、わが国における演劇研究は諸外国に比べて遅れており、特にアメリカ演劇研究の分野では、研究者の数それ自体が研究対象分野の大きさに比べて少ないことがその特色としてある。そのため、基礎資料の収集に予想以上の時間がかかることになった。研究期間中、わたしは何度か渡米をして、わが国の図書館等では収集不可能な資料を入手するなどの努力を怠らなかったが、結果としては基礎資料の収集はまだ不十分であるということになった。しかし同時に、少なくとも情報レベルでは、わが国ではほとんど知られていないトニー・クシュナーのような劇作家やレザ・アブドーのような演劇作家の活動をわが国に紹介することができた、わが国におけるアメリカ演劇研究の発展に多少とも貢献することができたと自負している。 当該研究中にもそのような方向性が確認されたが、現代のアメリカ演劇は、グローバル化の時代にあって、間文化的で以前より複雑な様相を見せていることも確認できた。と同時に、アメリカ演劇文化の間文化性というものにどのような固有の特徴があるのか、ということについては、たとえば日本の現代演劇文化の存在論的位相との比較などの方法を通して、これからも探求していくべき課題であろうかと思われる。それはまた、戯曲研究を中心にした狭義のテクスト研究だけでは捉えられない、より広い視野から現代アメリカ演劇実践を俯瞰する必要性を改めて確認させてくれることにもなったことを最後に付け加えておきたい。
|