研究概要 |
焦点化辞の解釈の方法について。 1. c統御の概念について 作用域に関わる意味解釈においては、焦点化辞の場合を含め、一般にc統御の概念が重要な役割を果たす。このc統御の概念について、Epstein et al.(1998)は、その定義の仕方を派生的に行なうという根本的な改訂を提案した。筆者は、その書評(『月間言語』第28巻6月号pp.96-99)において、Epstein et alの提案は、問題提起及び考え方の方向性の点では高く評価できるが、その具体的な仮説自体は多くの欠陥を抱えていて受け入れ難いことを具体例を挙げて指摘した。 2.作用域について 焦点化辞の解釈においては、LFで作用域を表示するための非顕在的移動が関与するというのが一つの有力な仮説であるが、筆者は、口頭発表("Scope,LF,and Conceptual Structure"東京英語学談話会、上智大学、1999年12月18日)において、主として日本語のダケを例に用いて、その考え方が誤りであること、及び、より一般的にはLF部門の存在自体が疑わしいことを主張した。主な論点は以下の通りである。 (1)ダケをLF移動したのでは意味的に誤った予測をする例が多数ある。 (2)ダケの作用域を得るためには、概念構造を見る必要のある例が多数存在する。 (3)英語の数量詞についても、(2)と同様の現象が観察される。 (4)(1)-(3)からは、LF部門が存在しないというJackendoff(1997)の立場が支持される。 (5)ダケとその焦点の相対的位置関係に関する制約を説明するためには、動的文法理論の観点に立って、日本語における基本的な焦点化構造からの派生を考えることが有用と思われる。
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