研究概要 |
(1)否定対極表現としてのevenについて Rooth(1985)やHerburger(2000)が主張するように、普通のevenとは別に否定対極表現(NPI)としてのevenが存在するかどうかは、単に焦点化辞の分析に止まらず、作用域というものの扱い更には統語部門と意味解釈部門の関係につながる非常に重要な問題である。しかし、LF部門での移動に対する一般制約の性質が明らかではないこともあって、この問題は未だに決着がついていない。筆者は、否定の文脈に生起しているevenの実例を収集、精査することにより、NPIとしてのevenを認める説に立つと正しい意味解釈ができない事例が複数あることを発見した。これが正しければ、NPIとしてのevenは存在しないことになり、evenは広い作用域を取り得るという結論が不可避となる。次の課題は、作用域付与の操作として一般にどのような仕組みが適切かという問題である。 (2)PPおよびNP内における英語の焦点化辞の生起に対する制約 evenやonlyは、数種の例外を除くと、PPおよびNP内に生起できないということがこれまでに指摘されてきた(Taglicht(1984),Rooth(1985),Kayne(1998))。しかし、当該の環境におけるevenとonlyの生起をコーパスを用いて精査してみると、問題の制約は絶対的なものではなく、事情ははるかに複雑であることが判明した。当該の環境における焦点化辞の分布には、項対付加詞、焦点のタイプなど複数の要因が関係している可能性が高い。分布に対する制約が、絶対的なものではなく、強弱の程度を変えながら働くという事態は、現在主流の言語理論では非常に説明しにくい。動的文法の観点に従い、言語習得の段階を考慮に入れ、最も規範的な生起環境から分布が拡張するという見方が必要ではないかと考えられる。
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