本研究は、古英語韻文散文全作品を対象とし、難読箇所、特に連語表現、比楡表現、定型表現に注目、共時的分析とともに現代英語との関連も解明することを目的とした。自ら作成した電子テキストとコンコーダンス、17世紀の古辞書から最新の類語辞典を含む30種の辞書、古英詩の現代英語訳30種、これら幅広い資料体活用が特色である。 平成11年度には韻文電子テキストを基にコンコーダンスや訳文対照テキストを作成、本文精読より得られたデータを補い、類句の調査に利用した。12年度には古英語類語辞典について研究を進め、成果をデンマークの国際辞書学会で発表、中世英語英文学会より依頼されてシンポジウムを企画、司会・講師を務めた。13年度からは既発表の論文15本の改訂に着手し学会誌に投稿を続けた。14年度には古英語作品の現代英語訳と日本語訳を再調査した。Beowulfの現代英語訳30種と日本語訳10種を収集、問題となる箇所の解釈の比較に利用した。この過程でBeowulfの最新現代英語訳の書評、日本語訳の比較論考を発表した。 特記すべき研究成果は、動詞standanの主語の範囲の分析と定型・比楡表現の現代英語までの系譜を明らかにしたこと、βeowulfの比楡表現に関する論考が創刊100年の国際誌に掲載されたこと、文体論の副次的研究であった辞書についての資料収集と分析が進み、英語最大の辞書The Oxford English Dictionary(1989)における古英語の記述と言語学術語の扱い、古英語類語辞典の記述と利用方法について論文5点、学会口頭発表2回、シンポジウムを企画し、語彙的文体論の分野で第1人者と認められたことである。 今後は、古英詩現代英語訳に見られる詩的複合語について研究を進める予定である。研究成果報告書に収めた9章150ページの古英語文体論集は英文改訂を行い、博士論文として提出する。
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