研究課題/領域番号 |
11610499
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
山中 光義 福岡女子大学, 文学部, 教授 (20047880)
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研究分担者 |
中島 久代 九州共立大学, 経済学部, 助教授 (90227778)
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キーワード | 伝承バラッド / バラッド詩 / ゴシック・バラッド / パロディ・バラッド / ゴシシズム / ウィリアム・ミックル / M.G.ルイス / ジョン・デイヴィッドソン |
研究概要 |
18世紀と19世紀のゴシック・バラッドについて、伝承バラッドの模倣と逸脱の様相と時代におけるバラッドの役割の解明を目的として以下のような分析を行ない、同種のモティーフやテーマを用いながらも、時代によるバラッドの詩人たちの模倣と逸脱の意識の違いを明らかにした。 (1)18世紀:William Mickle(1735-88)の"Cumnor Hall"(1784)とM.G.Lewis(1775-1818)の"Alonzo the Brave and Fair Imogine"(1796)は、バラッド・リバイバルがロマン派盛期の英詩を生み出す道筋を示す重要な作品である。ミックルは"the unvisited lover"のモティーフを伝承から模倣しつつ、モノローグという形式に依拠して語り手の苦悶を表現する形で内容・形式共に伝承からの逸脱を示した点に特色があり、ゴシック的状況設定の中に苦悶、自己中心性、内向化といったロマン派的傾向を顕著にしている。さらに「苦悶」のテーマはルイスによってゴシック的想像力の中心となされ、彼らが苦悩する人物という設定を介して「ロマン派的苦悶」(Romantic agony)といわれるロマン派の特色を準備したことが明らかになった。Coleridgeの老水夫やKeatsの鎧の騎士も典型的な苦悩する人物たちであり、ゴシック・バラッド詩人たちが伝承の中にロマン派的想像力へ至る可能性を見い出したことを、これらの作品は示している。 (2)19世紀:John Davidson(1857-1909)の"Thomas the Rhymer"(1891)や"A Ballad of a Nun"(1894)はルイスやScottのゴシシズムのモティーフをかなりダイレクトに継承しているが、世紀末へと向う時代のゴシシズムは、詩人の芸術論と時代や環境への批判意識を示すものと解釈できる。 このように、ゴシック・バラッドはバラッド詩の系譜のみならず英詩全般の心理化という現代への宿命の端緒となり、それを実践していることが指摘されうる。
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