(1)18世紀:ゴシック詩人とは「ギリシア・ローマの簡潔な美に到達できないが故に放縦を尽くした異常な空想をもってその不足を補おうとする者たちである」というアディスンの指摘と、ゴシック文学がその放縦な空想と扇情的な恐怖物語によって「心の識別力を鈍らせ、無知蒙昧に近い麻痺状態」に陥らせているというワーズワースの批判にもかかわらず、その100年間のバラッド詩の軌跡は、ゴシック的要素を伝承からの逸脱の中心軸にして展開した軌跡であった。逸脱の第一の点は感情表現。詩人たちはモノローグを通して話者の意識の動きを綿密にたどったり、亡霊を見る側から描写する「心理化」などの手法を取った。抽象化された言葉に託した「苦悩」の表現への逸脱は、美と苦悩、恐怖と歓喜を合体したロマン派文学に結実してゆく。今ひとつの特色は、伝承バラッドのゴシック的モチーフのパロディであり、伝承バラッドの遊戯性に対抗する詩人の側の遊戯性ないし非個性化として評価される。 (2)19世紀:基本的にはゴシック的要素の模倣と逸脱の軌跡を示すが、おおまかに分類すれば、題材のゴシシズムと手法のゴシシズムの2つのタイプがある。伝承の亡霊や妖精を模倣した題材のゴシシズムでは、詩人たちは題材そのもののゴシック性に依拠しつつ、恐怖、憐憫、苦悩などの心理を直接喚起するものとして伝承を利用し、手法のゴシシズムでは、恐怖や苦悩といったゴシック的感情を表現する技巧が詩人たちの関心の中心であり、リフレインを感情表現の技巧として巧みに変奏した作品が多く作られた。題材のゴシシズムから手法のそれへの推移や両者の融合の諸相に加えて、前世紀より一層シニカルなパロディ・バラッドの創作と、精神を蝕む近代化・自然回帰・反文明といった近代的テーマが、時代の不安を投影するゴシシズムとしてうたわれたことも、19世紀のゴシック・バラッド詩の特色である。
|