本年度は、昨年と同様に、ミニマリストプログラム、言語獲得関連の各種研究会に参加して、資料収集を行った。言語獲得関連では、第二回東京言語心理学会議を、『月刊言語』で紹介した。 また、第二言語獲得者が非対格動詞を用いる際に、非対格動詞を「受動化」する誤りに関する実験を検討して、その研究成果の一部を、Japanese/Korean Linguistics(カリフォルニア大学サンタバー校)、GALA(ポルトガル)、PacSLRF 2001(ハワイ大学)の各学会で発表し、論文にまとめた。これらの発表では、NP移動規則の過剰生成とする従来の説が不十分であり、この誤りが、完了性(telicity)と関与していることを示した。第二言語獲得者が非対格動詞をbe+過去分詞で用いるのは、受動文としてでなはく、完了形として用いていることを示した。これは、ヨーロッパ諸語で、非対格動詞が助動詞としてbeを選択するのと類似の現象である。完了の助動詞としてbeを選択する特性は、母語である日本語、目標言語である英語にも生じないが、ヨーロッパ諸語に見られることは、第二言語獲得における論理的問題を構成し、第二言語獲得で普遍文法が関与していることの有力な証拠となることを示した。また、非対格動詞の誤りであるSometimes comes a good waveと類似のデータを検討した。その結果、この誤りが生じる際には、必ず何らかの音形を持った要素が非対格動詞に先行することが判明し、Extended Projection Principle(EPP)の観点から検討した。 さらに、日本人英語学習者の第二言語獲得における論理的問題を構成する構文として、難易度構文を扱った。第二言語獲得においては、第一言語獲得同様の誤りに加えて、不定詞を受動化する誤りが見られる。これは、NP移動、Wh移動が競合する構文において、第二言語獲得者は、素性のMinimal Matching Principleを用いてNP移動を選択することを提案した。この原理は、第二言語獲得者がおかす他の誤りに対しても説明を与える。
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