研究概要 |
13世紀から16世紀にかけてイギリスおよび北フランスで製作されるか、あるいは流通していた写本、初期印刷本、教会美術、壁画などに関して、一次資料と関連文献を収集し、データベース化を進めた。 さらに、主要な研究対象のひとつである慶應義塾図書館所蔵の15世紀時祷書写本(書架番号120X680 1)に関して、全ページのデジタル化をおこない、研究素材としてのデジタル・ファクシミリを製作した。また同写本の挿絵にかんする美術史的調査をロンドン大学のワールブルク研究所の資料を用いておこない、写本の暦部分に糊付けされている17世紀の月歴図の版画について、具体的な典拠を同定した。 また、関連する12世紀以降の宗教的写本(時祷書、聖務日課書、ミサ典書、聖書など)および16世紀の典礼書(印刷による時祷書など)についても、書誌学的調査をおこなうとともに、挿絵のあるページを中心にデジタル化し、その成果を'European Illustrated Books and Manuscripts,c.1400-1700'というタイトルのウェブサイトを作成して順次公開した。(http://www.humi.keio.ac.jp/〜matsuda) 以上の一次資料調査の結果、中世後期の一般信徒のキリスト教信仰の実態を具体的に検証するための一次資料の絞り込みに成功し、分析のための基盤が完成した。14-16世紀前半を中心に、パリや北フランスのルーアンなどの都市で数多く作成された写本および印刷本の時祷書やミサ典書は、当時のイングランドでも数多く流通していた。これらを比較研究してゆくことで民間信仰における書物の役割、および教義的な力点の置き方が明確になることが明らかとなった。
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