13世紀から16世紀にかけてイギリスおよび北フランスで製作されるか、あるいは流通していた写本、初期印刷本、教会美術、壁画などに関して、さらに一次資料と関連文献を収集し、データベース化を進めた。 さらに、主要な研究対象のひとつである慶應義塾図書館所蔵の16世紀に印刷された時祷書(パリ、1515年)に関して、全ページのデジタル化をおこない、研究素材としてのデジタル・ファクシミリを製作した。また同写本の挿絵に関しては図像学的なリストを作成し、昨年度にデジタル化が完成した15世紀の写本の時祷書との比較研究のための素材を完成した。 また、関連する12世紀以降の宗教的写本(時祷書、聖務日課書、ミサ典書、聖書など)および16世紀の典礼書(印刷による時祷書など)についても、資料のデジタル化とデータベース化を進め、またデータベースの記述を標準化し、将来的により柔軟な検索を可能とするために、それぞれの図像について、国際的に使用されているアイコンクラス(lconclass)による図像学的ノーテーションの併記を開始した。 複数の未刊行一次資料について、全ページのデジタル・ファクシミリが完成したことで、中世後期の時祷書に関して比較研究が可能となった。中世後期の一般信徒のキリスト教信仰の実態を具体的に検証するための、ひとつの具体的な方法論が確立したことにより、中世後期のイングランドの民間信仰と書物生産の関係を、北フランスの出版文化の影響、読者層の同定、ディヴォーションと挿絵の関係などの視点で具体的に検証することが可能となり、その分析を始めた結果、一口に一般信徒のキリスト教信仰といっても、その媒体となるイメージにおいてかなりの多様性が看取されることが明らかとなった。
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