今年度も夏休み中を利用してオクスフォード大学に約40日間滞在し、主としてボドリアン・ライブラリーで当該の研究に必要な資料を収集閲覧した。その間、ニューカースル大学で行われた学会にも参加した。学会は'The Eighteenth Annual Seminar on the History of the British Book Trade'というもので、7月25日から27日まで3日間行われた。昨年も参加した学会で、この学会はもともとニューカースル大学のピーター・アイザック教授が地方における出版に注目し、それを調査研究することを目的に始めたものである。出版文化の研究が近年とみに盛んになるにつれて、この学会も大きくなり、ほとんど全国学会にまで発展した。その成果は毎年単行本として出版され、すでに数冊に達している。私がこの学会に注目するのは、私の研究課題である出版流通に関する多くの調査研究が披露されるからである。地方にロンドンの出版物がどのような経路をたどり、どのような手段で、誰によって、何日くらいかけてとどけられたのか。-そういう疑問は一部分は解けているが、いまだ十分に解明されているとはいえない。今年の学会でとくに興味深かったのは、ジェフリー・スミスの「18世紀後期から19世紀初期にかけてのニューカースルの書物と文化」と題する報告であった。かねて私は英国北部の文化の発進地としてのニューカースルに注目しているが、それを調べるひとつの重要なヒントを得たような気がした。エディンバラでなくなぜニューカースルなのか、その辺のところから調べてみる必要があるだろう。 今年度は『英語教育』 (大修館書店)に18世紀後期のカリカチュア出版について連載し、また『英語青年』に書評の誕生の経緯を掲載した。書評は地方の文化人がロンドンの出版文化に接する重要な役割を担った。まさに書籍流通の要になったのが18世紀の書評であった。-来年度は最後の年になるので、これまで収拾した資料を使って、出版流通の問題をより多角的に研究したい。
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