本年度は単に17世紀英国との関わりだけでなく、17世紀や19世紀のヨーロッパや日本など一層広範な視野でホーソーンの研究を進めた。特にアメリカという国の理念が視覚的な形をとって表現された首都ワシントンの考察により、ホーソーンに関する思わぬ発見があった。英米の死の慣習については、ホーソーンが愛読していた17世紀の英国の書物を参考に、<許されざる罪>に関するキリスト教の伝統的な解釈との関連で考察した。この過程で、研究活動を始めて以来のライフワークとも言える古典的<メランコリー>のテーマをも融合させることとなった。しかし、衣装関係については古い資料や、ホーソーンの諸作品を調べなおし、さらに考察を加えるにとどまった。 特筆すべきものとして『緋文字』発刊150年の記念企画があり、二つの企画に加わった。一つは『英語青年』の『緋文字』特集の企画である。この特集ではメンバーの選択を含む全体構想を任され、論文も執筆したおかげで、最近の批評の動きを含め『緋文字』を総合的にとらえる機会となった。もう一つは日本ナサニエル・ホーソーン協会の『緋文字』150周年記念論文集刊行であり、刊行委員会のメンバーとして論文の審査に加わり、また自分自身でも論文の原稿を提出した。審査の過程では他人の読みを通してもう一度テキストを精密に読む機会を与えられ、自分の読みの検討に役だった。 今年度は海外での資料収集を見合わせる計画であったが、来年度の完成年度を迎えるに当たり調査と資料収集が必要であることが判明した。そこでボストンに出かけ、ハーバード大学ホートン図書館、ワイドナー図書館などで、芸術、宗教関係の古い書類、書物にあたり、研究を支える裏付けを得た。
|