19世紀の作家の例に漏れず、ホーソーンが歴史家顔負けの第一史料の読み手であったことは、コラカチオを初めとするニュー・ヒストリシズムの批評家たちも指摘する所である。17世紀アメリカを舞台とする『緋文字』においても歴史的解釈は盛んである。けれども従来の歴史的批評には(1)アメリカ性の強調は顕著だが英国への目配りが欠けている。(2)歴史的観点とはいえ、政治や宗教など理論に偏り、具体的事物である文化表象は等閑視されている。これではテクストの正確な読みはできない。 当研究は、「楽しいイングランド」をひきずった「イギリス生まれの」「イギリス人」からなる、『緋文字』第一世代のピューリタンたちの持ち込んだ17世紀英国の豊かな文化表象に焦点を当てた。またアメリカの都市の歴史をヨーロッパの都市とのつながりで見ることにより、『緋文宇』解釈にこれまで気づかなかった一側面を強く意識するに至り、筆者のこれまでの研究を同じ方向へ、さらに深く進展させることとなった。特にルネッサンス人を惹きつけてやまなかった古典的<メランコリー>の図像を主要登場人物に見ることで、従来のピューリタニズム一辺倒では読みとれなかった「黒」に、新しい意味のベクトルをひらいた。従来の研究に当該研究成果を加えて『緋文字』論を世に出すことが残されている。 今後は『緋文字』以後のロマンスへと研究対象を広げる。読みの方法も基本的には同じだが、イギリスだけでなくより広範な地域の文化表象に目配りし、ホーソーン言うところの「ロマンス」の本質を明らかにし、ホーソーンの望む読み手となることを目指すことになろう。
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