本年度は、これまでの研究の総仕上げの年であったが、研究の目的は、第一にエマソンの思想、特に後年の思想とアメリカ社会との関連について明確にする。第二にエマソンの思想と陽明学、朱子学との類似性に関するこれまでの研究を継続する、という二点であった。 第一の目的については、主としてエマソンの西部講演と『処世論』との関連について考察した。エマソンは1850年代になると毎年冬期には、五大湖周辺地方、及びミシシッピ川流域地方に講演旅行に出掛けるようになる。特に1850年のシンシナティ講演の持つ意味について考察し、エマソンの講演が鉄道の敷設と関連していたこと、また西部講演によって奴隷制度をめぐる自由州と奴隷州との間の深刻な対立を理解する好機を得たことなどを明確にした。またエマソンが「処世論」の講演を最初に行なったのは、ボストンではなく、西部(今日の中西部)の入口に位置するピッツバーグ(1851年)であった。『処世論』のなかの特にエッセイ「力」と「運命」について考察し、これらがエマソン思想の変化を示す重要なものであることを指摘した。 第二については、2002年5月に開催された日本ソロー学会全国大会におけるシンポジアム(エマソン生誕200年記念)で、エマソンの思想と新儒教(特に王陽明、陸象山、朱熹)の教義との類似性、日本におけるエマソンの受容と新儒教との関連などについて発表したことは、アメリカ文学研究者との意見交換が出来、自らのエマソン研究が多くの研究者に認知された点で大きな収穫となった。これが契機となって、2003年5月開催予定の日本英文学会全国大会でのシンポジアム(エマソン生誕200年記念)でも、講師として発表することになった。 本年度の後半になると、「研究成果報告書」作成により四年間の研究をまとめた。
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