当基盤研究の継続二年目最終年度となった今年においては、共同研究者である東京大学大学院人文社会系研究科の田村毅教授が、同研究科の研究科長としての多忙を克服しつつ綿密な打ち合わせが行われた。今年度は、前年の成果であるネルヴァル全集第4巻の刊行という所期のロマン主義の身体語彙研究の一応の達成を受けた研究が継続された。具体的には、研究代表者の北海道大学大学院文学研究科の佐藤淳二助教授が、18世紀研究とりわけルソーにおける「身体」論を中心に研究を継続させ一応の結論を得るに至った。昨年の研究によって開かれた展望-これまで省みられずにいたルソーの断片的作品の重要性を発見し、それを本格的に分析した業績(「身体/主体/記号:ルソー『『ルクレチアの死』』、『フランス研究』2号」において示される、ルソーにおける「身体」と「自由」概念との関係-をもとに、新たに自伝的作品において「身体」とその表現形式、ディスクールとの関係が研究された。佐藤研究代表者は、仏語論文である「L'origine et les sensations-J.-J.Rousseau et les problemes de l'autobiographie」において、自伝のディスクールと「声」の問題を主題化し、さらにこの観点をさらに深化させて、「身体」と「真理のディスクール」の関係を考察した論文を発表する(4月刊行予定)。また冊子体の研究報告書に詳述されているように、「声」と「顔」という身体表現の水準で、ルソーの自伝がきわめて現代的な意味の問題を提起している(意味連関の内部で流通するものとしての「顔」と、そこから逸脱していく[顔])。これを現代のジャコメッティやジュネの芸術論との関連で解明するという新しい視点が獲得されたといえよう。
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