研究概要 |
啓蒙前期フランスにおける唯物論の生成を、無神論の歴史と一旦分離して考察することに決定し、本年度はJean Meslier(1664-1729)、来年度は<<L'Esprit de Spinoza>>(1719)に研究対象を絞った。上記の視点からJean Meslier,<<Memoire>>を検討すると、啓蒙前期のかなり早い時期における唯物論の提出という特異なMeslierの現象を解明する糸口がつかめてきた。これまで主張されてきたように、Meslierの唯物論は確かにデカルト主義の概念・用語を用いて提示されている。しかし、彼の根本的発想には『聖書』のテキストの徹底的解体と、その過程で確信となっていく新たな社会的生の再構築というテーマが置かれている。言い換えれば、精神的実体、超越的全能者、それらによって保証される抑圧的社会システムを否定するために、<<Memoire>>は『聖書』の聖性解体という統一的視点とそれによって組織された構造をもっている。先のテーマを展開するにあたって、精神的実体の空無化を主張するために、デカルト主義の延長概念、その論理構成が利用されたのであって、ある意味でメリエの唯物論は「反弁神論」の一構成要素にすぎないし、またデカルト的観念・定義は彼の唯物論を表現するために用いられた一要素であるとも言える。『聖書』の知恵文学的テキスト、農民的日常発想、17世紀リベルタンの原子論などが、ある点で論理的不整合を恐れずに、上に規定された「唯物論」の機能を成立させるために利用される。この意味で、Meslierの唯物論は彼の「反弁神論」の一要素として構造的に位置付けられるべきであり、キリスト教反駁・無神論から発した唯物論と形容できる。
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