ジャン・メリエの唯物論は、ジャン・ドゥプランらによってマールブランシュ派最左翼と定義された。すなわち、心身二元論と神における観想という構造に守られて、身体論においては徹底した機械論的説明と一般的物理法則を打ち立てたマールブランシュの体系をメリエは受継ぎ、その機械論的身体論を存在論全体にまで拡大した。すなわち、精密化された、デカルト派の延長に関する機械論的説明の合理性を頼りに、物質に運動を内在させ、思考さえも可能という信念をメリエは抱いたとされて。また、その一方でメリエの生命・思考観には、古代からの見解、有機体における調和から生じる機能という考えが同時に存在するとも言われてきた。この解釈には上記二つの理論を関係付ける視点が欠けている。我々は『覚え書』の霊魂論を分析することによって、メリエがどのようにマールブランシュ『真理の探究』およびモンテーニュ『エセー』を解体し、組み替えたかを示すことができた。明らかになったのは、メリエの生命観、思考生成理論は確かに、マールブランシュの心理学的記述を、機械論的説明に基づく唯物論的な生命・思考生成過程の記述に換骨奪胎させたものである。しかしこれは同時に意識的なデカルト派批判でもある。つまり、マールブランシュの周到な心身二元論がその根底に秘める護教的意図、神学的霊魂不滅論を鋭く暴露するものでもあった。また、メリエによる当時の霊魂微細物質論、古代のさまざまな霊魂論利用と見えるものは、実は『エセー』の徹底的な組み替えに起因する。それら引用は、農民ら読者を説得するための、内的・外的日常経験の実例として用いられたにすぎない。メリエの唯物論はその内部に不整合を有するものではなく、その説明的原理はデカルト派的理論を超えるものではないが、きわめて意識的なデカルト派霊魂論反駁であることが明らかとなった。
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