現在取り組んでいるヨーロッパ・フランス語圏地域研究をさらに補い発展させる中で、複合的文化を有するベルギーの、特にロマン主義から象徴主義の時代にいたる19世紀に焦点を当て、文化の「中心」「周縁」概念の考察を課題として研究を進めた。今年度の成果は、以下のようなものである。 1 フランス国立図書館において主にベルギー世紀末の雑誌や植民地文学に関する文献収集を行い、またフランス人研究者たちとの意見交換も行なった。 2 1830年独立前後のナショナリズム高揚期におけるベルギーの<ロマン主義運動>をヨーロッパ諸大国の動向との比較から考察し、フランスとゲルマンの狭間での特殊性を明らかにした。また民族意識高揚のために意図的に「国民神話」を創出しようとした作家ド・コステルのテクスト分析と作品映画化の顛末などをもとにして「神話」の実態、他文化圏での影響や誤解を解明した。 3 ベルギーの旧植民地コンゴに関する世紀末のいわゆる「植民地文学」を分析・検討し、小国ベルギーの「帝国意識」のあり方を明らかにした。 4 ベルギー象徴派の3大文芸雑誌の一つと言える『現代芸術』誌(他の2雑誌は検討済み)の、ベルギー文芸ルネサンスに対する重要性とともに、知識人たちの文化的中心主義指向も指摘した。
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