現在取り組んでいるヨーロッパの仏語圏地域研究をさらに補い発展させる中で、複合的文化を有するベルギー文化の「中心」「周縁」概念の考察を課題とした。前年度に続き、ベルギー19世紀のロマン主義時代および象徴主義時代を中心に、フランス語・オランダ語による文学・芸術(演劇・音楽・美術)に関する文献資料を収集し、分析・検討・整理した。今年度の成果は具体的には以下のようなものである。 1 ベルギーの旧植民地コンゴに関する世紀末のいわゆる「植民地文学」を分析・検討を続け、小国ベルギーの「帝国意識」のあり方を明らかにした。 2 世紀末ベルギー象徴派を代表し、フランス語を用いてゲルマン・北方精神を追及した作家メーテルランクの戯曲『ペレアスとメリザンド』を資料とし、フランス人作曲家ドビュッシーによるオペラ化の過程でのテクストの変更や時代背景の分析をもとに、ベルギー人民族意識の在り方を浮き彫りにした。 3 外国旅費により、ブリュッセル大学P.アロン教授と、申請者の研究に関する意見交換を行った。またベルギーの舞台芸術、特にその文化政策の現状について、フランス語圏文化共同体政府の芸術文化(演劇)担当者、ベルギー王立モネ劇場・国立フィルハーモニー協会・国立劇場・その他ブリュッセルの諸劇場の支配人や広報・経営担当者に会見し、聞き取り調査及び資料収集を行った。これによって多言語国家ベルギーの芸術文化環境の特徴を明らかにすべく、現在報告書をまとめている。
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