現在取り組んでいるヨーロッパ・フランス語圏地域研究をさらに補い発展させる中で、ベルギーを中心的な対象としてその複合的文化の歴史の全体像を捕らえることが課題であった。今回は特に、ロマン主義的国家主義、アカデミー設立、そして前世紀から今世紀初めにかけて他国にも大きな影響力を持った象徴主義の時代に焦点を当てた。当時急増し文化の重要な影響力となってきた文学・芸術雑誌の検討し、またフランスとの比較により文化・芸術のあり方の変遷を「中心」と「周縁」の視点から追った。その過程で、現在世界的な規模でみなおされつつある地域主義/文化、民族主義/文化の問題や、国家覇権主義に発する植民地主義・ポスト植民地主義問題も取り上げることになった。19世紀において、隣大国フランス同様、小国ベルギーもそれに匹敵する広大な植民地をアフリカに所有し、その影響や処理問題は現在に至るまであとを引いているのである。最終的には、19世紀の「向心性段階」から両大戦間における大国への「遠心性段階」を経て、1970年代からの地域主義による「弁証法的段階」へと至る文化活動の変遷をたどり、この国の文化状況の特殊性と意義を見い出すことを目標とした。 19世紀のロマン主義から世紀末象徴主義にいたる芸術文化活動の流れをひととおり追うことができ、さらに現在のベルギー文化の状況についても舞台芸術政策についての調査を通して考察を深めつつある。これからベルギーにおいてさらに時間をかけて現状調査と文献収集を行なう予定もある。これらの成果を整理し、独立以来のベルギー文化アイデンティティの問題について全体としてまとめるつもりである。
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