本研究は、少なくとも我が国においてはまだ未開妬といってよいフランス『百科全書』について、世界のめざましい研究成果を参考にしつつ、この近代ヨーロッパ世界最大の百科事典読解に新しい地平を切り開こうとしてきた。 本研究の方法上の特質は、書誌学的、社会史的、文学的なアプローチと、マルチメディアの技術とを並立させることにあり、とりわけ以下の4つの課題に照準を定めて遂行された。(1)思想システムの解明。(2)間テクスト性の解明。(3)生成過程の解明。(4)影響関係の解明。 平成14年度は最終年度にあたるので、とりわけ第3課題の『百科全書』図版生成過程解明に関する分析を深め、Keyence社製デジタル・マイクロ・スコープを多用して、『百科全書』図版およびその周辺に見られる博物誌を中心にした版画を対象に、比較研究を行った。その成果は日本橋丸善で開催された「繁殖する自然」展の図録に盛り込まれている。 また、ヨーロッパで昨年刊行された論集2冊に寄稿したフランス語論文で、すでに検討をあらかた終えている(1)思想システムの解明、とりわけチェインバーズと『百科全書』との関係について発表し、(4)影響関係の解明に関しては、目下執筆中のフランス語論文で、古代記憶術と『百科全書』との遠い関連を探っている。また、(2)間テクスト性の解明については、上記の「繁殖する自然」展図録でビュフォンを初めとする同時代の科学書や博物学書との関連を多角的に解明した。いずれこれらの一見雑多な要素を編み合わせる形で、一冊の単行書に編集していく予定である。
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