本研究はフランス18世紀啓蒙思想最大の成果である『百科全書』について、1)思想システムの解明。2)間テクスト性の解明。3)図版生成過程の解明。4)影響関係の解明という4つの視座から研究上の新しい地平を切り開こうとするものである。書誌学的、社会史的、文学的な方法と、マルチメディアの技術とを並立させ、それ自体が18世紀フランスの巨大なメディアであった『百科全書』の多面的な特徴を浮き彫りにした。 1)思想システムの解明 刊行準備期を彩る二つの「趣意書」から、『百科全書』本編の項目配置の戦略や論理に至るまで、この出版物の最大思想となる「知識の連鎖ないし分類」システムを幾多の実例に則して検討した。とりわけ英国のチェンバーズ『サイクロピーディア』が提出している知識の分類体系とベーコンの体系、フランス『百科全書』の知識の系統樹との比較作業をおこなった。 2)間テクスト性の解明。 『百科全書』博物誌関係項目とビュフォン初版との間テクスト性を、テクストと図版の両方について行った。 3)図版生成過程の解明 『百科全書』図版に関する分析を深める方向で、機械を用いた研究を遂行した。版画の任意部分を20〜170倍に拡大した画像で、彫版師の手法を克明に確認できる段階へと進んだ。図版の取り扱いに関しては、Keyence社製デジタル・マイクロ・スコープを使用した。 4)影響関係の解明 中世から18世紀中葉まで大きな影響力を持った古代記憶術と『百科全書』との遠い関連を探った。
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