研究概要 |
研究計画に従い,本年度は,現代ドイツにおける社会学的コミュニケーション理論の基礎となっているコミュニケーション・モデルの抽出と分析をおこない,コミュニケーション分析における方法論的なパラダイムの転換が進んでいることをあとづける作業を中心に研究を進めた。その結果,従来のドイツにおける社会学的コミュニケーション理論を代表するハーバマスのコミュニケーション行為論は,新たな公共性の創出という目的意識に強く規定されているために,現代の多様なコミュニケーション現象を分析する概念装置としては,極めて限定された領域にしか有効性を持ちえないことが明かになった。それに対し,現代システム理論をもとに展開されているルーマンのコミュニケーション・システムモデルは,情報・伝達・理解という極めて原理的かつ中立的な選択過程から構成されているがゆえに,コミュニケーションの多様な現れ方を統一的な視点から分析可能であることが確認された。このことは,この新しいコミュニケーション現象分析あるいはテクスト分析に関する文献調査によっても裏付けることができる。その代表的な例と言えるのが,フックスによる自閉症児童のコミュニケーション障害の分析(Peter FUCHS : Die Umschrift)であり,情報・伝達・理解の選択過程モデルが極めて広範な領域に応用可能であることが明らかにされている。また,本年度は,以上のような理論的な作業と並行して,現代社会の様々な特徴的なコミュニケーションないしテクストのサンプルを集める作業も進められた。
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