本年度は、前年度に引き続き、共通する文化的背景を持たないものどうしのコミュニケーション分析方法に関する研究を進め、異文化接触・交流のモデル化に対して新しいコミュニケーション・システム論がどのような有効性を持っているかを検討した。その結果、先行する文化的・言語的な共有コードを前提としなくても、相互観察におけるコンティンジェンシーの取り込みによって、社会システムの創発的な水準へと達することができるとするルーマンの理論が極めて応用範囲の広いモデルとして有効であることが明らかになった。これと並行して、メタファー現象を中心とするテクスト論分析に対しコミュニケーション・システム論が果たしうる役割についての研究も進めた。この問題に関しては、現在注目されている間テクスト性に基づいたテクスト分析は、主体性を捨象しテクストの一元性を強調する点において、コミュニケーション自体の二次観察(メタレベルでの観察)を基本的な構図とするシステム論と共通性を持つことを確認できた。これによって、コミュニケーション・システム論を用いることで、テクストの自己言及性を二次レベル観察の問題として解明すること、およびメタファーの意味転換機能をテクストの内部において説明できることが明らかになった。また、現代社会の様々な領域における具体的なテクストの分析もおこない、合意等の機能分析やメディア等のツール分析においても新しいコミュニケーション・システム論の有効性が確認された。
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