1999年はゲーテ生誕250年という記念すべき年に当たる。この年に刊行された多くの研究文献を購入し、それをもとにゲーテの著作のなかでも最も大部の著作『色彩論』全3巻を邦訳し、詳しい訳注と長い解説をつけた。特に訳注をつけるに当たっては、新たに刊行された研究文献が大いに活用した。本書の解説においては、特にニュートン光学とゲーテ色彩論の違いに照明が当てられている。たとえば影は色彩を帯びて見えることがあることにゲーテは注目し、それについて詳述しているが、この現象はニュートン的科学では説明できない。本解説はゲーテ色彩論とニュートン光学を別種の科学として捉え、両者を総合するような学を樹立することが必要だと説いている。本書は大きな反響を呼び、すでにいくつかの好意的な書評が出ている。 1999年には雑誌「思想」がゲーテ自然科学の特集号(ゲーテ 自然の現象学)を組み、それに寄稿した。そこで高橋は、ゲーテ自然科学方法論を哲学的に位置づけた。近代自然科学が自然を定量的に分析する学であるとすると、ゲーテ自然科学はあくまでも自然の表面を観察し、自然の表情を捉えることによって自然の本質に迫ろうとした。自然の表面に止まっているゲーテ自然科学は皮相な自然科学であると見られがちである。しかし人間はかつては自分を取り囲んでいる人々の顔の表情や空模様など、表情の解読を重視していたのではないか。自然の表情を忘れ、自然を分析し、それを人間にとって都合のよいように作り替えようとしたところに、近代科学の陥穽があるのではないか。そう説いた本論考は、多方面で注目を浴びた。
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