本研究はナチス政権時代の作家や芸術家とりわけ亡命作家達の生涯と活動の軌跡、作品と社会状況の相互関連を学際的に究明、考察することを目的とする。ナチス反対者の多くはナチスの政権獲得後、国外に亡命したが、その後の生涯は亡命先の国々の政治的、社会的状況に大きく左右された。国外亡命者の生涯と活動の解明において、各作家が亡命先の国へ辿り着いた経緯、移住先での生活環境、その国とナチスとの関係の変化、異文化間交流の実態、生み出された作品の分析といった各要素を考察する必要がある。 12年度は研究成果の一端として、「図書新聞」紙上で『蘇る精神の水脈』と題して、J.ゼルケの「焚かれた詩人たち」の解説、分析を行いながら、文学史が取り上げることのなかった十数名に及ぶ亡命作家達の生涯と活動を跡付けた。亡命作家の多くは1890年前後に生まれ、青年時代に文学的に表現主義に関与するかその影響を受け、第一次大戦に遭遇した「失われた世代」であること、そして亡命先で第二次大戦に直面した悲劇的世代であるという共通した特徴があることを明らかにした。 さらに個別研究として、『ゲオルク・カイザー、栄光と苦悩』という論文で、カイザーの生涯、とりわけスイス亡命時代に焦点をあて、日本では専ら表現主義の劇作家として知られるカイザーの後半生の言動を捉えた。また、9月にスペインで調査を行い、亡命作家の足跡を辿り、その報告を兼ねて、1930年代半ばにファシズムの犠牲となったG.ロルカに関する一文を書いた。目下、カイザーの個別作品の研究に取り組んでいる。
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