本研究はナチス政権時代の作家や芸術家とりわけ亡命作家達の生涯と活動の軌跡、作品と社会状況の相互関連を学際的に究明、考察することを目的とする。ナチス反対者の多くはナチスの政権獲得後、国外に亡命したが、その後の生涯は亡命先の国々の政治的、社会的状況に大きく左右された。 個別研究として、G.カイザーがスイス亡命時代に執筆した一連の戯曲作品に焦点をあてた。具体的には「ゲオルク・カイザー、栄光と苦悩」でその生涯を捉え、「『兵士タナカ』…日本の悲劇」、「カイザーの『メデューサの筏』と『オルゴール』」、「カイザーの『クラヴィッター』と『オルゴール』」、『ニューオーリンズのナポレオン』という論文で、日本では専ら表現主義の劇作家として知られるカイザーの後半生の作品を考察した。 科研研究報告書収録の二論文「亡命をめぐる歴史的考察」及び「第三帝国時代の亡命と亡命文学」(原稿計百五十枚)で、亡命に関する歴史的、概括的考察を行った上で、第三帝国時代の亡命作家の実態を亡命先の国別に究明した。国外亡命者の生涯と活動の解明において、各作家が亡命先の国へ辿り着いた経緯、移住先での生活環境、その国とナチスとの関係の変化、異文化間交流の実態、生み出された作品の性格といった各要素を考察した。 他に新聞の書評形式で一九三〇年代の亡命に関連した作品を複数取り上げて論じた。 また、2000年9月にスペインに赴き、2001年8月には北欧各国で調査を行い、ブレヒトをはじめとする亡命作家の足跡を辿った。ノルウェーのベルゲン及びデンマークのコペンハーゲンではレジスタンス記念館で資料収集を行った。 目下、F.ヴォルフやF.ブルックナー等が亡命時代に執筆した個別作品の研究に取り組んでいる。
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