具体的な成果として発表したのは、日本ビューヒナー協会の研究誌「ゲオルク・ビューヒナー論集」の創刊号に掲載された「家族宛のビューヒナーの手紙はみせかけの嘘か」という題名の論文である。ビューヒナーの書いた手紙の解釈は難しい。世界のビューヒナー研究を現在リードしているT.M.マイアーは、政治的な立場をカムフラージュするためにビューヒナーは家族に対して「みせかけの嘘」を書いたと論じた。しかし本論文ではこの見解を批判し、ビューヒナーの書簡には彼の文学と密接に関連があると思える歴史観が一貫して述べられている事実を論証した。 それともう一つ重要視したのは、ビューヒナーの文学の演劇学からのアプローチである。舞台での上演に関する研究は世界各国でも目下のところほとんど行なわれていない。しかし、ビューヒナーの作品はかなり多く舞台で演じられてきた。たとえば、「ダントンの死」は2001年にベルリンのシャウ・ビューネで新演出によって上演された。「ヴォイツェック」「レオンスとレーナ」もかつてベルリンで上演されている。こうした上演について論考し上演史をたどるための現地調査を精密に行なった。この成果を、今後の研究の発展におおいに役立てたいと考えている。
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