研究概要 |
「対照意味論」という旗印の下に、文意味論の構成とその中での意味の分岐を情報の観点から言語対照的に探求しようとする当プロジェクトは、前年度の成果を踏まえ「状況構造理論」をさらに幾つかの方向に発展させることができた。今年度に具体的成果となったのは語彙理論のレベルにおける構造化に基づいた項構造との関連についての諸問題である。特に状況構造理論が積極的に認める、文レベルにおけるアスペクトの非特定性(underspecification)を定める語彙的な性質に分析は集中したと言ってよい。第一に、従来副詞、強意語,数量詞、量化詞などとして扱われてきた語を用いて叙述の項としての事象についての微細な分析を行うことで,事象と対象物の動詞アスペクトへの関わりを明確化し,これをintegrativeかdistributiveかという叙述方法一般の性格に結びつけた。第二に、状況構造理論を動詞アスペクトについて形式意味論的に具体化させることで,上で述べた事象と対象物の動詞アスペクトへの関わりを語彙意味論で経路と呼ばれるものに結びつけて説明した。この形式化の利点は過去分詞の時間的解釈と静的アスペクト,結果構文と移動構文の付加句を明瞭な形で統一的に扱えることである。第三に、完了における分詞と助動詞の項構造と意味上の役割分担も同じ枠組の中で分析することができる。特に完了の助動詞としてBEとHAVEを使い分けるタイプの言語,特にドイツ語においてBEとHAVEの語彙的統一性を大きく認める分析を示した。
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