この1年間、主としてドミートリー・ショスタコーヴィチとセルゲイ・エイゼンシテインの二人を中心に、スターリン権力との関わりを研究した。前者については、「2枚舌のテロル-ショスタコーヴィチとスターリン権力」と題する論文(400字詰めで約120枚)を完成し、近々、発表する予定だが、そのための下準備として、3月初旬に北海道大学スラブ研究センターにて「オペラと権力闘争」と題する口頭発表を行った。また、エイゼンシテインについても、「衝突とカーニバル-エイゼンシテインにおける革命と権力の表象」と題する論文(400字詰め160枚)を完成させた。これら2つの論文は、これまでスターリン権力とのからみで書いてきたいくつかの論文ともども、近々、岩波書店から一冊にまとめて刊行される予定である。他に以下の2つの論文が発表された。 1「母性なき詩神-アンナ・アフマートワ論」(沓掛良彦編「詩女神の娘たち」、未知谷)20世紀を代表する詩人アフマートワにおける「母性」の表象とスターリン権力との関わりについて論じた。 2「<宿命>としての全体-20世紀ロシアにおける全体性文化と知識人」(「20世紀の定義」、岩波書店)ロシア人の精神性の根元に根づくとされるソボールノスチ(全一性)の観念が、20世紀にどう受け継がれ、ソビエト全体主義の形成にどのような役割を果たしたかを考察した。
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