オプチナ修道院における聖師父著作関係の出版物、19世紀の原典(マイクロ・フィルム)及び現在刊行中の再版本の蒐集を行った。主な収穫としては、オランダで復刻された19世紀のロシア聖師父著作露訳集全57巻の約半分、90年代に再版されたオプチナ修道院他の聖師父著作やロシアの長老制や霊性、長老の伝記、説教、書簡集などである。 資料の収集、整理と平行して、研究テーマに関わる文献渉猟、発表を行った(「ロシア正教と禁欲主義の伝統-ロシアにおけるフィロカリアの受容について-」 神戸外大論叢、平成11年第3号、神戸市外国語大学)。ここではオプチナ修道院復興以前のロシアの修道性の源流として、パイーシイ・ヴェリチコフスキーによおるビザンツ時代の正教理念の集大成としてのフィロカリア(ドブロトリュービエ)編纂事業の過程やその問題点、更にはこの書がその後のロシアの長老制の発展に果たした役割に関する概観を試みた。それによって、フィロカリアの霊的書物としての意義と、ビザンツ(アトス)とロシア(モルダヴィア)を繋ぐ聖性の系譜がパイーシイの弟子等の人脈によって確立されたことがある程度立証されたものと思われる。 また年度末には念願のオプチナ修道院訪問を果たした。復興後十年を経た今、この経験は単に聖地巡礼としての興味もさることながら、将来のロシア正教思想の発展を担うひとつの中心を目のあたりにしたということで、取材によって得られた貴重な資料とともに、多くの精神的刺激を与えてくれたものと思われる。
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