本研究においては、日本語諸方言における中舌母音生成に関して、研究代表者による調査資料が蓄積されている琉球諸方言を中心にして、主として以下の3点についで標記研究を遂行した。 1)既存の音声資料の整理と音響分析的手法による分析 2)新たな臨地調査による中舌方言資料の補完及び分析 3)中舌母音生成に関する仮説作りと仮説の修正 1)においては、「南琉球方言の中舌母音の音声実質」『音声研究4-1』(日本音声学会)に、「南琉球大神島方言の音対応と音変化」『岩手大学教育学部研究年報59-2』を発表した。 2)に関して、平成11年度においては鹿児島県名瀬市における音韻体系調査およびDATによる良質のディジタル媒体録音を行った。平成12年度においては、沖縄県宮古郡伊良部町長浜および伊良部において音韻体系調査およびDATによる録音を、鹿児島県大島郡喜界町塩道等において音韻体系調査を行った。音声研究におけるマルチメディア媒体利用に関しては、「方言研究とマルチメディア」と題して日本音声学会300回例会において発表した。また、名瀬方言を中心に適宜音響分析による中舌母音の定量化を行っている。 3)に関して、「日本語音韻史における琉球宮古方言」『日本語学18-5』を発表、その後の調査資料をもとに検討を継続している。舌先調音子音と結合するu母音の中舌化について、四つ仮名音声の消失過程と歴史的関係を有する可能性が喜界島調査によって明らかになった。また、青森の下北方言の歴史的資料であるタターリノフ『レキシコン』の検討から、東北地方の中舌母音が比較的新しい時代に生成されたものである可能性も明らかになってきた。
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