声楽の場合は、自らの身体が楽器であるが故に、その演奏にあたって他の楽器より主観的感覚に頼るところが大きいと考えられるが、あらゆる環境において効率のよい発生をするためには、こうした感覚は不可欠なものであり、その声に変化をもたらしている一因であると考えられる。そこで、歌唱者が歌唱する際、その環境から受ける影響について調べるために、音響の異なる環境において発声された声にどのような違いがみられるか、聴取実験および音響分析による調査を行った。 まず、声楽演奏経験の豊富な4人の歌唱者に、音響の異なる3つの環境において歌唱を行ってもらうという歌唱実験を行い、これをDATテープに録音した。3つの環境とは(1)残響が全く無い(2)適度に残響がある(3)残響が多すぎる、というように残響の量に差をつけ、他の条件は同一にした。 今年度は、昨年度の実験結果をふまえ、調査の対象を、「スタッカートでの跳躍音型」で構成された楽曲を歌った場合の「音程の正確さ」に絞って上記の方法で歌唱実験を行った。その録音を用いて、アンケート形式による聴取実験を実施、「音程の正確さ」についての評価を行った。さらに、音声音響分析ソフト「マルチスピーチ」を用いて、ピッチの正確さを分析、数値化した。また、各歌唱者に、それぞれの環境下で歌ったときの感想をアンケートに答えてもらい、考察の一材料とした。その結果、残響が非常に多い環境では、音程がより正確でなくなること、残響がほとんど無い環境では音程が最もより正確になることが明らかになった。このことから、歌唱者は、環境から影響を受け、それに対応しながら歌っていることがわかった。 今後は「スタッカート」、「音程の正確さ」以外のあらゆる要素についても検討していく必要がある。こうして環境空間と歌声の関係を客観的に明かにしていくことが、よりよい声楽教育、声楽演奏に発展していくと考えられる。
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