代表者の久保智之は、満洲語口語(中国新疆ウイグル自治区のシベ語と、同黒龍江省で話されている満洲語口語)について、特に音韻論的、形態論的な側面において、満洲語文語との異同を研究した(シベ語も満洲語口語と言ってよいが、ここでは黒龍江省の満洲語口語と区別するため、便宜的に黒龍江省の満洲語だけを「満洲語口語」と呼ぶ)。シベ語、満洲語口語とも、語幹と接辞の間の母音調和が消失している。シベ語はそれが、語幹と接辞の間の子音の調和にとってかわられている。シベ語は、/k/と/q/、/g/と/G/、/x/と/χ/の対立をもっている(おそらく満洲語文語とおなじ)が、満洲語口語は、それらの対立を失なっているようである。同言語は/r/と/l/の対立も失なっている。総じて、シベ語に比べて満洲語口語のほうが、満洲語文語との隔たりが大きいように思われる。 久保はまた、「満洲文字-文字の創生とその使い手の消滅、そして言語の消滅-」を執筆し、満洲文字の創生から消滅までを、シベ文字も含めて概観した。 分担者の早田輝洋は、引き続き『満文金瓶梅』の電子化テキストを使用し、満洲語文語の研究を進めた。今年度は特に、母音を5母音とするか6母音とするかという問題に関して、考察を進めた。 早田はまた、標準的でない語形を多く含む『大清全書』の電子化テキストを作成し、索引と共に公刊した。満洲語の音韻論的研究に裨益するところ、非常に大きいものと思われる。 本研究は今年度で3年の研究期間を終了するため、報告書を作成した。 なお、平成14年度からは、「満洲語記述文法の作成」という表題で科学研究費を申請中である。認められれば、満洲語の本格的な記述文法の作成に向けて、本研究の研究成果をさらに発展させていきたいと考えている。
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