第2年度に引き続き、「相づち行動」の機能・形態・分布に関する記述・分析を実際の録画・録音データに基づき行なった。また、引き続き、相づち及び会話行動一般に関する文献の調査を行なった。今年度は特に手話の会話についてアメリカ手話の文献を、再調査し、言語一般についてはターンテイキング(発話交替)を中心に、検索の幅を広げて人工知能学会、電子情報通信学会等の工学系の文献についても再調査した。 また、「相づち行動」の基礎となるターンテイキングについて、日本手話に関する解析を前年度から引き続き行なった。発話時間及び手指動作並びに非手指動作の重なりについて検討した結果、重複発話の前後でターンテイキングが起きている可能性を見いだした。また、非手指動作(信号)の一つである頷きの同時表出については、手指語彙に付随した頷きに於いて同時表出する確率が非常に高い事が見いだされた。 アメリカ手話及びターンテイキングに関する先行研究と今年度の解析結果から、重複発話及びターンテイキングの機能と形態(構造)について再考する必要性が示唆された。すなわち、従来の会話分析の多くが採用してきたSacksらのモデルは「一人ずつが話す」、従って「重複発話は逸脱(割り込み)である」というモデルであるが、ジェンダーや文化によってターンテイキングに関する会話スタイルも異なり「参加者全員が会話に同時に参加して会話を構築していく」、たとえSacks流のモデルであっても「割り込みではない重複発話」も存在するという事である。手話会話ではこれらの特徴がとくに顕著に見い出される可能性が有る。 現在は上記の理論モデルに基づいて手話会話の解析を進めるとともに、手話以外の言語・データに関して解析を進めている。従って最終報告書の提出の延期を申請する予定である。
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