本年度の研究実施計画は、(1)日本語話者は連続音声に対してこれまで明らかにしたモーラ以外の音韻単位の認識が存在するか否かについてReconstruction(語彙の復元)の手法により、(2)シラビーム方言話者は音節の音韻単位の認識が存在するか否かについて、tappingの手法により、(3)英語及び日本語話者の心内辞書における音韻単位の認識をメトロノームの手法により、(4)日本語話者の語彙認識ではピッチアクセントの情報が関与するか否かをGatingの手法により、それぞれ調査を実施した。その結果、(1)では、日本語話者は従来のモーラに加えて、音素レベルでの認識が存在する可能性が明らかとなった。つまり、日本語話者は、通常はモーラを中心に据えて分節を行うが、音素についての認識も併存することを示唆している。その成果は、米国音響学会で発表後、Journal of Memory and Languageに投稿済みである。(2)では、青森市の高校生を対象に日本語、英語、スペイン語の言語を用いて調査を実施した。現在データの解析中である。(3)では、米国の大学生はモーラの認識が少ないことが明らかになった。その成果は、Labphon及び国内の学会で発表を行う予定である。(4)では、熊本市の大学生及び栃木、茨城県に在住する大学生を対象に実験を実施し、すでに東京方言について明らかになっている成果と比較検討を行った。今回調査を行った話者は無アクセント方言であるため、東京方言話者と比較してピッチアクセント情報が語彙選択に関与する程度が低いことが明らかになった。これは、語彙認識とピッチアクセントの間には実は密接な関係が存在することを示唆するもので、従来の言語学におけるピッチアクセントの新たな機能が見出されたと言えよう。その成果は、米国のJournal of Phoneticsに投稿し、現在印刷中である。
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