中国残留日本人孤児(婦人)が日本への帰国を望む最大の要因は、子や孫の進学であり、日本語教育を必要とする中学生を対象とした調査でも、8割を超える生徒が高校進学を希望し、中国への帰国希望もわずかに3%弱と定住志向が強いことが分かる。中国帰国生の教育を取り巻く状況を調査し、以下のことが明らかになった。1:高校進学に必要とされる日本語能力、特に読み書き能力が高いハードルとなっている、2:一校あたりの在籍数が少なく、有効な手段がとられていないことが多い、3:渡日した年齢が低い学生(学校教育の大半を日本で受けている)の場合、日本語能力が一見高いように見えても、必ずしも学科目理解につながらない、4:母語である中国語と日本語に共通する漢字の知識は、高等教育で必須のリテラシー習得に有利に働くと考えられる、5:親の日本語能力は低く、家庭での使用言語は中国語が大半。しかし、会話の内容は日常に関わることに限定され、中国語の読み書き習得(バイリテラシーの可能性)は期待できない。(その分、学校教育への期待と責任が大きい)、6:高校入試において優遇措置が執られていないことが多く、義務教育以後の進学、特に大学までの進むことがむずかしい、7:大阪府内の公立高校(上神谷高校:学区内では最下位のランクに位置づけられる)では、帰国生を数多く受け入れ、専任の教員を配置し(3名)、日本語補習授業だけでなく、中国語、中国文化保持のためのさまざまな活動を行っており、毎年高い大学進学率(98年度生は13名全員、99年度生は10名中6名)を維持している。要因として、学校側の熱心な取り組み設備の充実、比較的高い年齢で渡日した生徒が多い等、さまざまなことが考えられるが、生徒の学校内および家庭での言語活動などを、個別のアンケートや実際の言語データを経年的に取ることによって、二言語保持が学力形成に貢献していることを裏付けたい。
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