中国帰国生の言語能力(母語としての中国語と第二言語および学習言語としての日本語)と学力形成、および高校、大学進学との関連で調査を行った。前年度に引き続き、帰国生を数多く受け入れ、地域の拠点校的な立場にある大阪府下の公立高校に協力願った。この高校はきめ細やかな日本語教育が正規授業また課外活動としても位置づけられているだけでなく、中国語保持に必要な環境(中国人講師による学齢相応の中国語授業、学内の数多くの中国語図書、中国語を用いた活動がさかん)があり、帰国生の立場が認知されていることなどが、生徒の日本語獲得ならびに中国語保持を可能にしている。 在籍する33名にアンケートを行い、以下のような知見を得た。1)日本語能力で弱いのは「話す」「書く」の産出面とする者が多いが、滞日年数が4年を越えると「書く」が増加する。興味あるのは「聞く」と「読む」(受容面)では、「聞く」が弱いとする者の方が多いこと。日中に共通する漢字の知識が要因と思われる。2)中国語能力では対人コミュニケーション能力はそれほど弱くならないが、小説を読んだり、手紙を書く能力は滞日年数が増すにつれて激減する。3)「聞く」、「話す」能力では滞日年数が長くなっても、中国語の方が高いとするのに対して、「読む」、「書く」能力は4年を過ぎると日本語の方が高いとする者が増える。母語保持においても「リテラシー」を重視する必要がある。2000年度に大学に進学した生徒は日本語も中国語も共に能力が高いか、日本語は低いが中国語能力は高いという生徒であった。後者が進学可能となったのは、帰国生特別枠を設ける大学が増えたことが要因だが、中国語(母語)による学力形成の方法が保証できれば、なんとか義務教育以後の進学が可能になるとも考えられる。もちろんそれには入学後の日本語のケアが不可欠であり、これは同じく入試がある高校進学についても言えることである。
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