1.北欧の主神オージンを筆頭とする12名の「馬または船に乗る神々」に、来訪神としての特性があることを論じた。 2.ヴァイキングの鴉の軍旗は本来、知恵と予言と勝利の神オージンへの犠牲を求める意味があった。大和入りした神武天皇の軍勢を先導した八咫鳥の伝承にも、「羽振り」(祝り;葬り)の思想、すなわち「敵を犠牲に供して、ケガレを祓い清める」意味がこめられていた。言いかえると襲来する外来王の旗印は、いずれもカラスであった。 3.「旅をする贈与主」としてのロキは状況に応じて「賢と愚」を使い分けている。見知らぬ異人の前で雄弁をふるい、対決の姿勢を露わにする顧問官の「賢」は、豊饒と平和を司る統治者の「英知」と不即不離の関係にある。前者は客人に対して敵対的な態度を示すが、後者は好意的な款待の意を表明し、相互補完をなす。 4.イエアート(南西スウエーデン)の勇者ベーオウルフはデンマークに遠征し、贈り物として魔法の首飾りと胴鎧などを携え帰参した。前者は王妃ヒュイドとの「秘められた愛」をはぐくみ、後者は主君ヒュイエラークの死を招く。すなわち、かの勇者は異国への遠征を成就をしたことにより、故国イエアートにとっての「恐るべき異人」(a terrible stranger)として帰還したのだ。5.冬至は元来、祖霊または超自然的な存在者が人里を訪れる一季であり、北欧の冬至祭(Yule)はいわば「神聖なる来訪者」にまつわる信仰より発している。 6.オージンは荒れ狂う死者の軍勢を一手に統括する神だが、風を鎮め、豊饒をまねく特性も備えていた。まさに馬に乗る来訪神の姿は、「荒猟師の伝承」の中に生き続けてきたのだ。 7.北欧教会建立伝説について、工事依頼人を「海からの異人」、請負人を「山からの異人」と規定して、その成立背景を塁壁造成の神話の中に探った。 下田は、ヘーリオドーロスの『アイテイオピカ』を中心として異界と異国の接触について研究してきた。ギリシア喜劇断片についての研究成果を公表する予定である。
|