研究課題/領域番号 |
11610574
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
水野 知昭 信州大学, 人文学部, 教授 (30108435)
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研究分担者 |
下田 立行 信州大学, 人文学部, 助教授 (90240788)
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キーワード | 北欧のマレビト / 流され王 / おさな君 / 恐るべき異人 / 双生神 / 神聖なる王権 / 剣と枝の連合 / 異境・異界・異国 |
研究概要 |
水野:1.「海と山の異人」の見地から、北欧教会建立伝説(K伝説)とアースガルズ塁壁造成神話(A神話)の成立をめぐる比較研究を進めた。A神話における鎚をふるうソール神の特性は、K伝説の成立過程で、教会建設の依頼人(聖王オーラヴ)と請負人の性格に分裂していることを解明した。2.ケルトの四季の初めを画する祭りにおいて、「火と水」の要素が相補的に認められることを確証し、「死と再生の原理」は北欧神話にも共通しているという概括を得た。3&4.櫂の無き船にて海原を渡り来る幼児が土地の者によって育まれ、成長して始祖王になるという一連の北欧伝説を検証した。柳田国男の「流され王」と折口信夫の「マレビト」および「神をはぐくみ申す者」という日本民俗学の概念を援用して説明づけた。海の彼方に憧憬された「豊饒と幸」の島、いわば古ゲルマン的な「常世郷」(原語vangr:水野1984)を想定してはじめて、「北欧マレビト考」は存立しうる。海神ニョルズと大地豊饒神フレイの原質にこそ「マレビト」の特性がひそむことを明確に把持しえた。この論稿について英文と和文の両方があるのは、「比較神話学国際シンポジウム」(名古屋大学2000年9月8-10日)にて公表したことに拠る。5.鹿・髪・枝・剣という四つの視点をもって、北欧のフレイとバルドルは元来、双生神であったと主張した。ヴァン神族出身のフレイは、いわば「異境より来たれる神」であり、アース神族の王子バルドルの殺害に関与したと推論することが出来た。すなわち、みずからの「剣」を放棄し、「鹿角」で代用したフレイによる巨人Beli殺しは、「武器を持たぬ」盲目のホズルが「寄生木の枝」を射て成就したBaldr殺害の神話と緊密な相関関係に置かれうる。これは新説であるが、BeliとBaldrが共通の印欧語根*bhel-「(蒼)白き輝き」に遡及しうることもその傍証となる。そしてバルドルの殺害には「恐るべき異人」ロキが教唆者の役割りを演じている。6.日本神話と比較しながら、北欧神話のミズガルズ「中つ国」とグルンル「根の国」を分析し、地平の彼方に「異人」が出現する世界観を浮き彫りにした。7.神々と世界蛇の闘争神話を「内と外」、「中心と周縁」といった記号学的な「異人論」の図式(山口昌男)によって説明した。 下田:ギリシア喜劇断片の解読、およびヘーリオドーロス『アイティオピカ』の翻訳に従事している。古代ギリシア人の生活実態に焦点を当てつつ、そこに係わる異国間交流を考察している。口碑の神話伝説がどのようにして文学に変貌をとげるかを更に追究してみたい。本格的な注釈書がないため、翻訳作業がやや遅れ気味とのことである。
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