研究課題/領域番号 |
11610574
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
水野 知昭 信州大学, 人文学部, 教授 (30108435)
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研究分担者 |
下田 立行 信州大学, 人文学部, 助教授 (90240788)
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キーワード | 中つ国 / 根の国 / 異人の来訪 / 媒介的な存在者 / 賢と愚 / 竜蛇退治の勇者 / 聖戦 / 救出神とマレビト |
研究概要 |
[水野]1.日本神話の「中つ国」と「根の国」の概念と比較しながら、中心と周縁、水平軸と垂直軸の図式に基づき、北欧神話の世界観を分析した。大地の奥底なるグルンドは、まさに「底根の国」として、水底の領域と連結しているという思想があった、と結論づけた。地平のかなたに「異人」が出現する思考パターンを照射しえた。2.フレイとバルドルが双生の兄弟であるという、私自身の仮説をさらに進展させるために、スキールニルを両者の「媒介的な存在者」としてその意義を確定した。かれは神界と異界を来往する「異人」であるがゆえに、求愛の使者の役割を演ずるのだ。「武器を持たぬ」ホズによるバルドル殺害と、「剣を持たぬ」フレイによる巨人ベリ殺しは緊密な相関関係に置かれうる。3.「大いなる賢者」と称されたオージンの傍らで、ロキが「道化」を演ずることの意味を解明した。統治者の「賢」(A)と顧問官の「賢」(B)は不即不離であり、ロキが「愚」を露呈することによって、二種の「賢」の紐帯はより堅固なものとなる、と論じた。かかる「賢と愚の弁証法」をもって、ロキの異人性がより的確に捉えられることになる。4.古今東西の伝説において、竜蛇退治の勇者は「異人」としての共通特性を有する。ギリシアのアポローン、ゼウス、ヘラクレス、ペルセウスのみならず、インドの雷神インドラ、日本のスサノヲ神。その他、ベーオウルフ、ヴォルスング王家のシグルズ、ソール神など、北欧の数ある勇者たちがこの図式に妥当する。竜蛇は、勇者が超克すべき「もうひとりの自己」(alter ego)の特性を有し、また両雄が戦いを繰り広げる場所は、不可侵の聖域であった。こうして、勇者にとっては、激闘そのものが、聖地を奪回し、あるいはそれを死守するための「聖戦」の意味を有していた。5.ニョルズは、風、海波、および火という「絶えず揺れ動く」三大エリメントを統握する神であるが、海のかなたより来往する「北欧のマレビト」として定義できる。人里に「平和と豊饒」を招き寄せるばかりではなく、海難からの「救出神」としての特性を有することを論証した。ニョルズという神名が、語源的に、古代ギリシアのネストール「絶えず帰り来るもの」と関連があると推定しえたことは、最大の収穫であった。この洞察が、北欧とギリシアを結ぶための今後の道標となろうこと、疑いがない。また、過去の研究を総括して、『生と死の北欧神話』(松柏社)が刊行される。 [下田]ギリシア喜劇断片の解読に従事している。紀要論文にその第(五)篇を公表したが、今後とも続行してゆく。一方、ヘーリオドーロス『エティオピア物語』の翻訳は完成も間近い。今年度の刊行をめざして、鋭意努力を傾注している。
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