今年度は十五世紀末から十六世紀末までの北ヨーロッパおいて、若い娘をめぐる社会的まなざしがどのように変化しているかを、特にドイツを中心とする都市の世俗歌(流行歌)の分析によって探った。これらの歌には、ネーデルランド(オランダ)にも流布しているものがかなりあり、また同じ歌が宗教改革運動を経る中で様々なヴァリアントを生んでいることから、諸都市の同時代的傾向やこの時代の混沌が生んだ心性の変化などを辿るために格好の資料と判断したからである。その結果、十六世紀初めに流行した世俗歌には娘の処女性喪失を揶揄し嘲笑する歌が多く見られるが、この世紀の終りごろには処女性を守るように娘のモラルを説く歌が多く現われ始めること、そして特に新教を支持した諸都市でこの傾向が強いことが明らかになった。またその背景には、結婚が都市社会の制度的基盤として重視されるようになり、その関連で女子教育に対する社会的取組みが体系化されていった様子が窺えることも資料によって跡づけた。
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