平成12年度では、文化への権利、特に言語への権利と伝統的生活への権利の内容を権利論的に考察した。特に近現代の立憲主義の枠内でなお集団的な要求がなされる根拠と正当化の構造および権利実現の際の政策的方途の条件を考察した。ここで重要なのは、権利の概念が一定の理念に基づくことによってその内容と具体的実現の際の指針が得られることであり、それがまた具体的な資源の分配方法をも規定することの認識である。この点で、申請者は、すでに行った権利論と分配の正義論の哲学的研究の成果を基礎としつつ北海道での伝統的生活空間再生構想検討委員会での実践経験を学問的に反省することで、公正の理念に基づいた解釈的な対話と手続きによって、具体的なイシューの公共的な絞り込みによって様々な手法での権利実現に資する一定の方法的議論を重ねた。また、以上によって得られた知見をもとにしながら、具体的なアイヌ民族の伝統的生活空間再生の政策的試みを一つのケース・スタディとして、一般的な理論的指針と特に日本における現行憲法あるいはその他の関連する法律との整合性をも見通しつつ、北海道の伝統的生活空間再生構想検討委員会において具体的政策の提言の中間報告をとりまとめることに携わった。尚、これらの研究の部分的成果は2001年刊行の著書<公正の法哲学>(信山社出版)にまとめられた。
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