1.土地制度改革と社会発展 土地制度改革は、(a)土地に対する私的所有権またはその他の排他的権原の確定、および(b)いったん確定された所有権またはその他の権原の再配分という二つの要素からなる。(a)は市場における取引(売買、担保権設定等)の客体となり、市場メカニズムの重要な基盤の一つである。安定した土地所有権またはその他の土地権原の確立には比較的長期間を要するが、発展途上国の政府は、地租徴収、土地管理、インフラ整備等の政策的企図により、このプロセスにしばしば介入してきた。その手段が土地登記(land registrasion)であり、政府は土地登記システムの整備を通じて土地権原の確立を主導し、これによって土地担保金融の促進、土地投資の拡大、土地収益の増大と生産性の向上、および国家の税収の増大を図ろうとした。その成功例はオーストラリアのトレンス・システムにみられ、同システムはタイ、シンガポール、マレーシア等の発展途上国に継受された。他方、(b)の典型は農地改革(agrarian reform)であり、その成功例は非常に少ない。これはたんなる所得の再配分にとどまらず地方の権力構造の劇的な変更を意味するからである。フィリピンにおける農地改革の展開がその好例である。 2.中国における開発と土地法改革 中国は土地制度改革の二側面(1(a)、(b))のうち、(a)のプロセスにある。土地の公有制を維持しつつ、その使用権の設定・譲渡を認めるシステムは、実質的には土地の私的権原の確立過程と言える。これは耕地の建設用地転換による農地減少、環境破壊等をもたらしつつあり、中国政符は土地管理法の制定および改正により、これをコントロールしようとしている。しかし、公有制に伴う所有主体の曖昧さが残り、これをめぐって中央政府と地方政府との権限分配の政治的駆引きが行われている。
|