1.本研究は、平成11年度と12年度の2年間にわたる研究である。本研究のテーマの一つであるドイツ・ナチズム期の安楽死法については、「幻に終わったナチスの安楽死法」という題名で、論文を公表することができた。この論文は、ナチズム期に安楽死法の必要性が叫ばれ、安楽死法草案が作成されていたにもかかわらず、総統A・ヒトラーの反対で日の目を見なかったナチス安楽死法の論点とその問題性を浮き彫りにしたものである。ナチス安楽死計画の要因としては、優生学や民族衛生学の応用という点が挙げられがちであるが、本研究では、その最大の要因が経済効率の優位にあることを実証した。 2.今一つのテーマである「ユダヤ人立法」に関する研究では、カール・シュミットを中心とするナチス法学者のヴァイマール期、ナチズム期に書かれた諸論文の翻訳・解読を通じて、ナチス法学者および知識人のユダヤ人観・法治国家観の一端を明らかにした。特に(1)シュミットに見られるような「同質性」「同種性」「種の同一性」という概念の巧みな使い分けが、ヴァイマール期およびナチズム期のユダヤ人抑圧の修辞的要素となったこと、(2)法(Recht)と法律(Gesetz)とを区別し、ユダヤ人の思考を法律実証主義の側に、ナチズムの思考を民族法の側に置くことによって、ナチズム期の法学の分野でも、ユダヤ人とドイツ人との対立が「人為的に」作り出されたこと。以上の思想史的経過を検証できたことは、一つの収穫であった。
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